INTERVIEW
「満足度は玉数だけじゃない」
梓川花火大会の夜空をまるごとデザインする花火師たちの挑戦

梓川花火大会の夜空を彩る花火。その一発一発を打ち上げてくださるのが、華松煙火の花火師のみなさんです。
10月17日(土)の本番を前に、主催者である松本商工会議所梓川青年部が『華松煙火』さんの作業場を訪ね、花火づくりへの想いと今年の見どころを伺いました。
「あんまり喋れないんで……」と照れ笑いしながらも、話が花火のことになると、言葉には職人の確かな熱がこもります。梓川花火大会の花火はどうやって実現されるのか。華松煙火の花火師、上條さんにお話を伺いました。

父の背中から始まった、花火との日々
花火師を志したきっかけは、父が代表を務める花火会社でした。手伝いを重ねるうちに、花火の面白さと奥深さに引き込まれていったと言います。
知れば知るほど面白くなっていきました。打ち上げの現場にいると音で歓声までは聞こえないんですが、終わったあとに「すごく良かったよ」と喜んでくれる声を聞くと、本当に嬉しいんです。昔も今も、どの現場でもその気持ちは変わりません

幼い頃から、夏は花火とともにありました。「夏はあまり遊びに行けなかったこともありましたけどね」と笑います。それでも、自分たちがつくった花火で誰かが喜んでくれる瞬間に、「やって良かった」と心から思えるのだそうです。
「完成がない」から、追い求めつづける
何ヶ月もかけてつくり、夜空に開くのはほんの一瞬。そんな仕事に向き合う心構えを尋ねると、こんな答えが返ってきました。
絶対的な完成形というものは、実際に見てみないと私たちにもわからないんです。原料もロットによって変わるし、それによって仕上がりも変わってくる。完成がないというか、それを追い求めることが花火の魅力のひとつなんじゃないかと思います

その探究心の土台には、修行時代の経験があります。「当時は昔ながらの職人の世界でしたから、厳しい言葉をもらったり、働く時間も長かったりしました。」それでも当時お世話になった会社とは今も良い関係が続き、一緒に仕事をすることも多いそうです。
「今思えば、本当に修行に行ってよかったなと思っています」

1ミリのズレが、夜空では何メートルにも
花火の玉の中には「星」と呼ばれる火薬の粒が詰められています。その大きさや並びの精度が、夜空での開き方を左右します。
大きい玉だと、30センチの玉が上空で300メートルに広がります。つまり1ミリのズレが、空では何メートルものズレになってしまう。そういうところには、すごく気をつけてつくっています

この精度を支える新しい道具が、今年導入した3Dプリンターです。火薬を仕込む型づくりに使っています。これまでは木を削って手づくりしていましたが、3Dプリンターならミリ単位で正確に仕上げられるそうです。
まだ導入したばかりのため、現在は本番で打ち上げる玉の型を試作している段階です。伝統の技に、新しい技術が少しずつ重ねられています。

和火と洋火、夜空に抑揚をつける
花火の色や明るさは、火薬の配合で変わります。大きく分けると「和火(わび)」と「洋火(ようび)」の2種類があります。
洋火のほうが温度が高くて明るい。和火は温度が低くて暗い。その強弱や抑揚の付け方が、花火大会のデザインになるんです。どちらにもそれぞれの良さがあるので、曲の緩急や演出の意図に合わせて打ち分けています

音楽と花火を合わせる演出にも、花火師ならではの感覚が生きています。玉が打ち上がってから開くまでの時間は決まっているため、音に合わせて「打ち上げる」のか、音に合わせて「開く」のかによって、タイミングが大きく変わるそうです。
花火の構成は花火師に任されており、音楽との関係を考えながら、一つひとつの場面を組み立てています。

梓川だからできる、空間まるごとの演出
観客席と打ち上げ場所の距離が近いのが、梓川花火大会の特長です。華松煙火のみなさんは、その近さを活かして、空間全体をひとつの作品として描いてくださっています。
大きい玉が真ん中で開いて、その下の段に小さい玉があって、さらにその下に演出があって。お客さんから見て、空間全体をコーディネートすることを考えています

今年は、打ち上げ場所にもひと工夫を加えました。例年は田んぼに筒を並べていましたが、今回は一段下がった奥の道に設置し、観客からより見やすくなるよう調整しています。

美しい花火とは何か。その問いへの答えは、とても花火師らしいものでした。
玉自体のクオリティはもちろんですが、空間の演出としてまとまっている花火がきれいだと思います。「この大会は何発です」という発数だけで評価するのは、花火屋からすると本質ではないんです。発数だけなら小さい玉をたくさん打てばいい話になってしまうので。満足度は、玉数では測れないと思っています
当日は、ぜひ一発一発だけでなく、夜空全体の構図にも目を向けてみてください。
安全第一。そのうえに、今年の挑戦を
観客との距離が近いということは、そのぶん安全への責任も大きくなるということです。
安全第一は大前提で、そこに良い演出を乗せていく。長野県は観客との保安距離がとても近い県なので、玉の製造から現場での設置まで、より安全に気をつけて徹底しています

そのうえで、今年はひとつ新しい挑戦も用意しています。この秋に控える花火の競技会に向けて考えた新しい演出を、梓川花火大会でも取り入れました。どの場面がそれなのか、想像しながら見上げるのも楽しみ方のひとつです。

梓川の花火を、地域とともに
最後に、梓川花火大会への想いを伺いました。
花火大会という名前に変わり、梓川地域の花火をさらに盛り上げられるよう、花火屋としても協力していきたいと思っています
新たな名前でスタートを切った今年の梓川花火大会。私たちにとっても、これほど心強い言葉はありません。
インタビューの後は日なたへ移動して集合写真を撮影。カメラの前に並ぶ表情は、少し照れくさそうで、それでいて誇らしげでした。

何ヶ月もの準備と、1ミリにこだわる手仕事。そのすべてが、10月17日の梓川の夜空で花開きます。私たち青年部も華松煙火のみなさんと力を合わせ、安全で心に残る大会をお届けできるよう準備を進めています。地域のみなさまとともに、その一瞬を見届けられるのを楽しみにしています。
梓川花火大会は、地域の企業・個人のみなさまのご協賛に支えられて開催しています。
温かいご支援をいただいたみなさまに、心より御礼申し上げます。